最終更新日:2002.6.10

画像電子学会 研究会講演要旨
第192回 研究会(2002年 3月 4日)





スキャナー読み込み誤り検出

彦坂典正(山梨大学工学部)
川合啓太郎(山梨大学工学部)
森田温子(山梨大学工学部)
大木真(山梨大学工学部)
橋口住久(山梨大学工学部)
土屋三生(ニスカ)
窪田峰夫(ニスカ)

 シートスルータイプのスキャナー読み込み誤りの検出法に付いて述べた。 読み込み誤りが起きると、本来あるはずでない色が見える場合がある。これ を色ずれと呼ぶ。読み込み誤りのなかで最も目立つものが、色ずれである。 色ずれに着目し、読み込み誤りを検出する。色ずれの発生の仕方には決まった 法則がなく、1つのアルゴリズムでは全ての色ずれを検出することは難しい。 個々では、”相関を用いる方法(相関法)”、”彩度を用いる方法(彩度法)”、 ”CIEL*a*b*を用いる方法(CIEL*a*b*法)”の3つの方法について検討した。  相関法では、輝度変化の仕方の相違に注目し、2色間相関を求めることで、 色ずれの検出をした。彩度法では、彩度を用いてカラー部分を抽出し、カラー 部分の大きさから色ずれを検出した。CIEL*a*b*法では、モノクロームのエッジ 部分に注目し、その部分の色を判定することで色ずれを検出した。  いずれの方法でも目視される色ずれを検出できることを明らかにした。 相関法では、RGBの輝度変化の仕方に注目して行ったので、カラー部分から 色ずれを検出できた。彩度法では、処理回数が少ないので処理時間が最も 速い。CIEL*a*b*法では、モノクローム部分の色ずれのみを検出できた。


マグネトグラフィにおける磁気力の三次元解析

小野 拓(明星大学)
小鍛冶 徳雄(明星大学)

 記録媒体上に記録された磁気潜像から磁性トナーに作用する磁気力の解析はこれまで理 論計算式を使って二次元で行われてきたが、本研究ではさらに実際に近い様子を知るため に有限要素法を使って三次元解析を行い、その結果を二次元解析の結果と比較検討した。 磁界分布は磁性トナーが隙間なく記録媒体上を覆うモデルでは二次元解析の結果と良く一 致したが、磁性トナーを多面体としたモデルでは、各磁性トナー内部に反磁界が生じる様 子が観測された。また、磁気力は各磁性トナーの表面に働き、トナー内部では小さいこと が観測された。記録媒体上の磁化反転部の近辺では記録媒体と磁性トナーとが引き合う力 が強い。隣接磁化反転部の真中周辺では記録媒体と磁性トナーとが引き合う力は弱いが、 隣接磁性トナー同士が引き合う力が強く、そのために隣接磁化反転部を覆って磁性トナー ブリッジが形成される。このことは二次元解析および実験結果とも良く一致した。記録媒 体の磁化方向(X軸)と直交するY軸方向に働く磁気力は二次元解析の座標軸(X軸、Z 軸)方向の磁気力と比較して小さいことがわかった。また、2層目の磁性トナーに働く磁 気力は1層目の磁性トナーに働く力と比べて約1桁小さいことがわかった。今回は600dpi (ドット/インチ)における解析を行ったが、今後はさらに高画素密度の解析を行う予定 である


ツィストボール方式ディスプレイの研究

代田 友和(明星大学)
小鍛冶 徳雄(明星大学)

 ツィストボール方式ディスプレイにおけるボールの回転因子を調べるために実験を行っ た。実験装置は、ボール磁石のN極側を白に、S極側を黒に着色し、パネルにマトリック ス状の穴(セル)を設けて、セルの中にボール磁石を収納した。パネルの下に鉄板を敷き、 ボールの回転ブレーキと静止位置保持の役目を持たせた。ボールと鉄板との間にスペーサ を挿入し、鉄板とボールとの吸引力を調整した。電磁石により磁界をボール磁石に印可し、 ボール磁石が回転する条件を調べた。その結果、(a)電磁石の鉄心の中心とボール磁石の中 心とはずれていることが、回転トルクを生むのに必要である。(b)電磁石がボールの上を移 動しながら磁界を印可した方が、静止したままで磁界を印可するよりも回転しやすい。(c) 電磁石の鉄心は太い方が少ない電流で回転する。(d)鉄板とボール間のスペースが小さいと 大きい励磁電流を必要とする。(e)隣接ボールの影響が大きく、4近傍では隣接ボールを巻 き込むことなく1個のボールだけを静止、回転させる条件を得ることができたが、8近傍 では1個のボールだけを静止、反転する制御条件を見つけることが難しく、隣接ボールを 巻き込むことが多かった。また、半回転で静止せずに1回転してしまうこともあった。今 後は隣接ボールの影響を排除するための工夫が必要である。


平面表示との両立が可能な立体視ディスプレイとその性能評価

石井 源久(株式会社ナムコ)
宮沢 篤(株式会社ナムコ)

 従来から、レンチキュラやパララックスバリアを用いた立体視ディスプレイ が開発されている。これらのディスプレイで2D映像を表示することは勿論可 能であるが、3D映像表示時と同じ状態で表示すると、その画質は、ディスプ レイ装置本来(レンチキュラやパララックスバリアを装着していない状態)の ものより低下するという問題点があった。  そこで、3D映像を表示する場合と、2D映像を表示する場合とで、ソフト ウェアおよびハードウェアに何らかの変化を与えることにより、2D映像表示 時の画質を向上させる方法、理想的にはディスプレイ装置本来の状態にする方 法が、検討されてきた。  しかしながら、従来の方法は、画質の改善が不十分であったり、3D−2D のモード切り換えに手間や時間がかかったり、装置のコストがかかったりして、 画質の向上と実用性を兼ね備えているとは言えない。  我々は、表示部分の光学系を変化させることで3D−2Dの表示状態を切り 換える、実現性の高い複数の方法を新たに考案した。  そのうちの一つは、レンチキュラの焦点面と液晶ディスプレイ等の画面との 間の距離を変更することにより、3Dと2Dのそれぞれに適した表示状態とす る方法であり、「浮上式」と呼称する。この方法は、2D映像表示の画質が、 ディスプレイ装置本来のものと遜色なく、さらに、3D−2D切り換えのオー バーヘッドが、従来の方法と比較して非常に小さい、という利点があり、特に インタラクティブな環境において効果的である。  我々は、この方法について、画質および実用性の面から、従来の方法との比 較検討を行った。画質については、2D映像表示時に従来のものからどの程度 改善されるかについて、性能評価実験を行った。


呼吸と心拍の相関性について

山形朋久(大阪電気通信大学)
藤崎紘久(大阪電気通信大学)

 自律神経系は生体が生きていくために最も基本的な、循環、消化、 排泄、体温維持などの自律機能を無意識のうちに常時調節している。 呼吸は循環系などの他の自律神経系とは異なり、自律神経による調 節を受けながらも意識的に制御することが可能である。一方、心拍 数は運動、ストレス、呼吸などにより変動するとされ、その中でも 呼吸の心拍に対する影響は大きく、呼吸数と心拍数の間には強い相 関があるとされている。本研究ではこの相関性を知ることを目的と して、生体計測装置とパソコンを接続した計測システムを構築し、 呼吸曲線と心電図の同時計測を8名の被験者について行った。この とき計測データは、呼吸数は自然呼吸時と一定回数に制御した調節 呼吸時についてのものであり、このデータを用いて、@自然呼吸と 調節呼吸間の呼吸数と心拍数の相関性、A呼吸曲線とR-R間隔およ びR波高値の時系列データの相関性、B呼吸数とR-R間隔平均変動 幅の関係について解析を行った。その結果、安静時の呼吸数と心拍 数の間には有意な相関は認められなかったが、R-R間隔とR波高値 の呼吸性変動が認められ、さらに呼吸周期とR-R間隔平均変動幅の 間に有意な正の相関を認めた。この結果より、心電図による簡易呼 吸モニタリングが考えられ、本計測手法の有用性を確認するととも に、本計測装置を用いることで他の計測パラメータについての応用 も期待できる。


視覚障害者のためのマルチメディア歩行支援システムの研究―福祉を目的とした電子地図の実現

劉 志傑(神奈川工科大学)
小宮一三(神奈川工科大学)

 高齢化・高福祉社会に向けて、視覚障害者が自立して外出することを支援するシステムは重要である。本 研究では、GPS位置測位と通信機能を有する移動機を障害者が携行することを前提に、目的地までの最適経 路をあらかじめセンターより移動機に入力し、その経路情報を音声ガイダンスの指示を受けながら歩行する システムを提案し、基礎検討を行なった。まず(1)歩行者に適した経路検索方法の検討として、歩行者は カーナビと異なり、一方通行の道でも両方向通行可能であることや、交差点のわたり方についても自由度が 大きい。これらの自由度を含めた経路のあらわし方を規定し、状況に応じて最適経路を指示できる方法を明 らかにした。(2)福祉電子地図の作成方法の検討として、市販の地図作成システムを用いて具体的に地域の 福祉情報や工事中の道、雨天で歩行が困難になる道などを搭載し、危険物を避けるルート探索のできる経路 決定方法と表示方法を検討した。(3)GPSの測位精度向上の検討として、本システムでは1m以内の測位 精度を得るため、多元測位補正法の検討を行なった。これは従来のDGPSのように一個の基準局からの電波 による補正でなく、複数の基準局からの電波によるもので、その最適配置方法、データ処理方法の検討によ り平均30%以上の向上が図れることを確認した。以上の検討により本システムの基本機能について確認し たが、今後(1)経路指示システムと地図との連結、(2)移動機とシステムの通信によるデータ交換、 (3)位置測位の更なる向上、(4)歩行実験による有効性の確認、などの検討が必要である。


光学的小型顔認識装置の開発とその評価

渡邉恵理子(日本女子大学理学部 )
稲葉利江子(日本女子大学理学部 )
小舘香椎子(日本女子大学理学部 )

 近年、個人の身体的な特徴を用いて本人を確認するバイオメトリクス認証の需要が急速に高まっている。 中でも、非接触で認識が行え、心理的抵抗が少ない顔認証は最も待望される技術であるが、顔は3次元 で角度・表情・経時などの変化が常に生じるため現状では市販されているデジタルソフトもあるが、 確立された実用器はない。  本研究室では光の持つ空間並列性を生かし、瞬時にパターン認識が可能な光結合変換相関器 (Joint Transform Correlator:JTC)を原理とした顔認識システムを構築し、良好な結果を得ている[1]。 このシステムは光と電子の双方のメリットを生かしたハイブリット型システムとなっており、デジタル コンピュータによる前後処理と光による相関演算の3層構造となっている。前処理では、左右目頭・鼻下点 の3点を指定し、その3点からなる三角形の面積を一定なるように縮小・拡大を行い、鼻下点を基準として認 識サイズに切り出しを行う。透過光量の均一性とSN比向上のために、エッジ抽出と全体の20%を白くする 2値化処理を行う。光並列相関器では、画像特徴量の計算と実験により認識画像のピクセル数を決定し、 空間並列数が最大になるように工夫を加え、フーリエ変換用レンズにMulti Level Zone Plate Array: MLZPA を適用することにより並列演算を可能としている。後処理では光相関演算により得られた相関信号を再度 コンピュータに取り込み、比較値を求め、識別を行う。  この光並列相関器の実用化に向け、Fig.1に示すような20cm×24cm×43cm、6kgの小型器(COPaC)の設計 試作を行った。密閉による熱の影響を緩和させるために光源などの駆動回路を縦並列に納めた2層構造 としてる。この装置の評価としてバイオメトリクスガイドラインに沿った評価実験により、本人拒否率 0.3%、他人受け入れ率0%を得ることができた(Fig.2)。この値は、コンピュータログイン、玄関エント ランスに適用可能な認証装置のセキュリティレベルに達している[2]。更に実用実験として、登録者10名 に対して28日間のコンピュータログイン実験を行い、92.8%認識率と96.4%排他率を確認した。また、 表情変化に対しては、目や口などの動きに対してロバスト性があることが確認し、試作した光学的小型 顔認識装置の実用器としての可能性を得た。


動画像中における複数歩行者の追跡技術の開発

山下 正人(沖電気工業株式会社)
増田 誠(沖電気工業株式会社)
平本 美智代(沖電気工業株式会社)
天本 直弘(沖電気工業株式会社)

 画像処理技術を用いて歩行者を追跡する技術は,交通 流計測などへの応用が期待されている.しかしながら現 状では,多数の歩行者が互いに近接または交差する状況 下において安定した追跡を行うことは非常に困難である. われわれは,動画像中に同時に十数人の歩行者が存在す るような状況下でそれぞれの歩行者の動線を算出できる 追跡技術の開発を目標とした.  本研究では,歩行者追跡システムとして,オプティカ ルフローに基づいて領域分割を行い,得られた人物領域 を時間的に連結してトラックを形成する手法について考 えた.特に,トラックを生成する際に新規のトラックに 近接した既存のトラックが存在する場合には両トラック を1個のグループとして扱い,その後に両トラック間の 画像上での距離が十分に離れたと判断されたならば,そ の時点で分離して両トラックそれぞれの追跡を続行する ことにした.この手法によって,歩行者の身体の一部に よって発生する誤報の出現を抑制し,かつ複数の歩行者 についてそれぞれの動線を得ることが可能となる.  次に,複数歩行者が出現したにもかかわらず1個のト ラックのみが生成された場合への対処として,動線を複 製する手法を提案する.すなわち,あるトラックがグル ープから分離された際に,もしグループがトラックより も古くから存在していた場合には,トラックが誕生する 以前の過去の動線をグループの過去の動線から複製して, トラックに与えることにした.これによって,出現当初 は近接しており1個のトラックで表されていた複数歩行 者が後に複数のトラックに分岐した場合に,それぞれの 歩行者に対して出現当初からの動線を与えることが可能 となる.  最後に,提案手法に基づいて歩行者追跡システムを試 作し,フィールドデータを用いて行った追跡実験の結果 について紹介する.追跡が成功したか否かを全フレー ム・全歩行者について計数することによって得られた追 跡率は,90.6%という高い値を示した.



All Rights Reserved, Copyright(c) Institute of Image Electronics Engineers of Japan
本講演要旨に関してご意見がありましたら学会事務局までご連絡下さい。
E_Mail:iieej@ma.kcom.ne.jp