最終更新日:1999.3.4

画像電子学会誌 論文・資料アブストラクト
第27巻 第4号(1998年8月)





曲線上の最短点検出を利用した自由形状変形法

西田友是(福山大学工学部)
松田亮治(福山大学工学部)
高栄一寿(福山大学工学部)

CADシステムにおいてインタラクティブな曲線の修正変形などの処理は重要である. また,曲線の変形のみでなく,その曲線の変形を利用した形状処理も有用である. 本稿では,スクリーン上において指定した任意の点と曲線との最短点を高速検出する方法を提案し, この検出法を応用した自由形状変形法を議論する.直線と頂点との距離は簡単に算出できるが, 曲線の場合一般に解析的に解くのは困難である.n次曲線の場合,(2n-1)次式を解く必要があり, 安定にかつ高速処理するには問題がある.本稿では曲線としてBezier曲線を用い, Bezier Clipping法を用いて,1次式の反復計算のみの効率のよい高速アルゴリズムを提案する. この検出法は,曲線上の任意の点のパラメータ値の算出(いわゆる逆問題),複数曲線の中からの曲線選択, 曲線のインタラクティブな変形などの広範囲に応用できる.本論文では,特に有用な利用法として, 2次元図形の自由形状変形,モーフィングへの適用法を提案する.また,メタボールによって表現された人体モデルのインタラクティブな形状変形の例により, 提案法の有効性を示す.


4面体分割アプローチの3重線形補間との誤差評価と可視化

土井章男(岩手大学工学部)
鈴木聡史(有限会社ナインライブス(NINELIVES Inc.))
小山田耕二(日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所)
三中西信治(株式会社アーレスティ研究所)

4面体分割アプローチで使用される線形補間は,4面体内部で数値変化が大きい場合, 線形補間の仮定による誤差が無視できなくなる場合がある.しかしながら,従来この誤差の分布は十分解析されていなかった. そのため,我々は,直方格子内部の補間に使用される3重線形補間関数と,直方格子を分割した4面体内部の線形補間関数を比較して, 4面体内部の補間に使用される線形補間関数の誤差の分布を解析する.評価尺度として, 補間関数の違いのみを表現する「補間関数誤差ノルム」と分布データ場(field;フィールド)を考慮した「フィールド誤差ノルム」を提案し, これらのノルム値を用いて,誤差の分布を等値面表示により可視化する. キーワード:4面体分割,誤差,ノルム,等値面,可視化,補間関数


透明光学系の波動光学的散乱現象の可視化計算

平山英樹(広島大学工学部)
門田良実(島根大学総合理工学部)
金田和文(広島大学工学部)
山下英生(広島大学工学部)

本論文の目的は,表面をコーティングした透明物体が入れ子になった透明光学系をモデル化および可視化するための統一的な方法を提案するとともに, そこでの分散,干渉,トンネル効果,共鳴散乱などの波動光学的散乱現象を可視化計算することにある. まず,層状光学系のシステム理論的モデリングにもとづき,層状薄膜系の4種類の反射率および透過率間に成立する関係を導出し, 反射率の効果的な計算法を提案する.つぎに,従来のレイトレーサに,データ構造の拡張, 物体スタックの導入,薄膜層の表面属性化,接合・挿入機能の実装などを行い, 物体表面に薄膜層をもつ入れ子状光学系の波動光学的散乱現象を可視化計算するための“薄膜-入れ子”レイトレーサを開発する. このレイトレーサにより,これまで「物理法則にもとづくレンダリング」で取り上げられてきたプリズムの分散色やニュートンリングの干渉縞などのレイトレーシングに加え, トンネル効果や共鳴散乱などの干渉現象や入れ子状透明光学系の光学現象などの可視化計算も統一的に行えるようになる. ここで提案する方法は,散乱系が共有する普遍的構造と公理的性質にもとづくシステム理論的モデリングに立脚しているので, 電子波による量子系,あるいは弾性波による弾性系のように他の散乱系の可視化計算へも容易に適用できるものとなっている.


積乱雲のビジュアルシミュレーション

菊池司(岩手大学工学部情報工学科)
村岡一信(盛岡短期大学)
千葉則茂(岩手大学工学部情報工学科)

映像コンテンツの制作には,CGを中心としたディジタル映像技術の利用が不可欠となっている. 近年,特に映画の製作においては,実写映像とCG映像の違和感のない合成技術が開発, 利用されており,自然界に存在する様々な物体や現象をリアルに表示するCG技術の開発がますます重要なテーマとなっている. 本報告では,雲の映像生成のための3次元CG手法を提案する.本手法では,雲を多数の雲塊から構成されていると見なし, それぞれの雲塊を1つのパーティクル(雲粒子)によって表し,ビジュアルシミュレーションを行っている. 本手法は,このパーティクルを温度,気圧,空気密度の関係により定義される浮力と, パーティクル同士の相互作用力,さらにパーティクルが大気より受ける作用力によって運動させるモデリング法と, パーティクル群から生成されるボリュームデータから,等方散乱,ミー散乱,およびレイリー散乱を一次結合した位相関数による一次散乱のみを考慮した雲のレンダリング法からなる.


融雪のビジュアルシミュレーション

村岡一信(岩手県立盛岡短期大学)
千葉則茂(岩手大学工学部情報工学科)

コンピュータグラフィックスによる景観映像の生成技術は映像コンテンツ制作の基礎的な技術の一つである. 特に,季節の自然景観映像の生成は困難な問題を数多く含む魅力的なテーマである. 本論文では,冬季の自然景観映像に不可欠な積雪景観映像の生成のための積雪・融雪形状の生成法を提案する. 積雪形状は降雪中はもとより降雪後も融雪により刻々と変化する複雑なものである. その融雪の要因としては,日射,地熱,物体からの放射熱などが考えられる.本提案手法は, ボリュームデータとして定義される積雪に対して,これらの要因を考慮した熱伝搬シミュレーションにより融雪形状を自動生成するものである. さらに,本論文では,雪の質感を表現するためのボリュームレンダリングに基づく画像生成法を提案し, 画像生成例によりその効果を示す.


人工生物イルカのリアルタイム・アニメーション手法

栗原恒弥(株式会社日立製作所中央研究所)

バーチャルリアリティの応用の一つとして,人工生物(イルカ)のCGモデルを開発した. CGイルカは人工の海を自由に泳ぎ回り,ユーザからの指示に反応して,ユーザに近寄ってきたり, ジャンプなどの曲芸を行う.このために,位置や速度(方向)などの高レベルのゴールからアニメーションを自動的に生成する手法を開発した. 追跡やジャンプなどの高レベルのゴールは,タスク・レベルの処理や経路計画によって, 遊泳,方向転換などのモーション・プリミティブ(基本的なモーション)に分解される. モーションプリミティブは,フーリエ合成手法により関節角度のアニメーションを生成し, 生物の推進力,方向転換などを制御する.簡単な物理法則を導入することにより, イルカの自然な動きが生成される.


順・逆両問題アプローチを統合したインタラクティブ照明設計システムの開発

土橋宜典(広島市立大学)
中谷秀貴(富士通株式会社)
金田和文(広島大学)
山下英生(広島大学)

近年,コンピュータグラフィックスは室内照明設計にとって有効な技術となりつつある. コンピュータグラフィックスを用いれば,室内の照明効果を事前にかつ視覚的に評価することができる. 室内照明設計では,順問題アプローチあるいは逆問題アプローチを用いて照明設計を行うことが多い. しかし,多くの場合,いずれか一方のアプローチを用いて照明設計が行われている. また,従来の照明設計手法では,相互反射環境下での照明計算に多くの時間を必要とするため, インタラクティブに照明設計を行うことは困難であった.本論文では順問題および逆問題の二つのアプローチを統合したインタラクティブな照明設計システムを提案する. これにより,順問題アプローチ,逆問題アプローチ双方向からの照明設計が可能となる. 提案システムを用いれば,効率的かつ直感的な照明設計が可能となる.


CGアニメーションとナレーションおよびBGMの同期化編集システム

多田村克己(山口大学工学部)
三好孝治(広島工業大学環境学部)
中前栄八郎(広島工業大学工学部)

本論文では,特別な専門知識や熟練を持たない人でも,映像・音声情報の視察によるインタラクティブな操作によって, バックグラウンドミュージック(Back Ground Music:BGM)とナレーションを,その品質を損なうことなく, CGアニメーションに容易に同期編集できるプロトタイプを提案する.本提案システムは以下の特長をもつ. (1)時間軸に沿ったBGM,ナレーションの各要素の内容が視覚的に把握でき,さらに, コマ撮りCGアニメーションのシナリオも同一時間軸上に表示できる, (2)BGMおよびナレーション情報の短縮・伸長を,品質を損なうことなく,インタラクティブに編集ができるインタフェースをもつ. 具体的には,ユーザの指定したCGアニメーションの区間と,それに対応するBGMの曲全体もしくは必要に応じて曲の途中のテンポを変更して, 両者の再生時間を同期させることができる.さらに,ユーザがナレーション編集(短縮・伸長)のためのパラメータを設定すると, それに基づく疑似的な無音区間を自動的に抽出・編集し,ナレーションとCGアニメーションとの同期編集ができる.


点対称カメラ配置を利用した仮想空間へのオブジェクトの取り込み

島貫正治(山形大学工学部電子情報工学科)
佐藤寛幸(山形大学工学部電子情報工学科)
赤塚孝雄(山形大学工学部電子情報工学科)

サイバースペースで3次元対象を取り扱う場面が増えている.ここでは形とテクスチャの簡易高速取り込みを考える. 撮像系での透視投影は,シルエットの大きさがカメラからの距離の関数となる.このとき点対称に配置したカメラで撮像を行い, 2つのカメラ画像のシルエットの輪郭に対象の同じ点が観測されれば,それらは画像中心からの角度が同じ方向の点として対応が認識され, 画像中心からの距離関係から,単純な比例計算式でその3次元位置を決定することができる. この点対称配置カメラを複数組用いた3次元形状同定実験を四角柱,人の頭像を対象に検討して, 少ない画像枚数から3次元形状を復元できることを確認し,さらに,人の頭像について, この方法で撮像画像の形状同定を行い,テクスチャマッピングも試みて,良好な結果を得た.


2色性反射モデルを用いた画像データからの分光反射分布の推定

嶋野法之(近畿大学理工学部)

本論文では2色性反射モデルを用い,写真を被写体としたビデオカメラの画像データから照明に関する事前情報なしに, 拡散反射成分の分光分布を復元する方法について述べる.復元された分光反射分布は撮像時に用いた外光並びに蛍光灯の2つの光源についてほぼ同一で, 真の分光反射分布に近い結果が得られた.また,この分光分布は光源を近似するのに用いた直交関数に依存しないことも確かめられた. 復元された分光反射分布から推定されたCIELAB色空間での測色値の平均色差は約7であった. 特に,L*の小さな色ほど色差が大きく,これが平均色差を大きくしている原因となっている. これは,推定時にすべての色について拡散反射成分の重み係数を同一とし擬似逆行列解として求めた画像データの鏡面および拡散成分に含まれている誤差に起因しているものと考えられる.


ウェーブレット変換を用いたコピー機の送りむら解析

杉山渉(豊橋技術科学大学)
中村和明(豊橋技術科学大学)
山本眞司(豊橋技術科学大学)
伊藤哲也(ミノルタ株式会社)

コピー機やプリンタのように印刷を行う装置において,紙送り速度の精度が画質に大きな影響を与える. 特に微細な縞模様の含まれた画像では,速度の変動がむらとなって顕著に表れる. この送りむらの原因としては,走査に関わるローラやギアの磨耗,偏心などがある. このような送りむらを解析する従来からある手法としては,ロータリーエンコーダなどのセンサーを用いて直接送りむらを測定する手法があるが, 小型の機器への取りつけが難しいという問題があった. そこで本報告では,対象とする機器が出力した画像からウェーブレット変換を用いて送り速度の変動を検出し, むらの原因系を特定する手法を提案する.本手法を実際のプリンタから採取したデータに適用したところ, プリンタの出力に含まれる送りむらの強度や起こった時刻,さらに周波数成分を検出できた. また,本手法と従来手法であるピッチ測定による送りむら解析手法やフーリエ変換のみを用いる解析手法との比較を行った結果, 周波数分解能や時間分解能において本手法の優位性が確認された.


書籍の輪郭情報に基づくコピー機の画像補正

大削弘樹(関西大学工学部)
伊藤秀隆(関西大学工学部)
隈元昭(関西大学工学部)

厚みのある書籍などからの歪んだコピー画像の補正手法は,Shape from Shadingの原理に基づき, 問題を単純化するいくつかの前提のもとで,既に研究されている.以前の研究では, この補正のために画像処理で多くのパラメータが必要である.本論文では,コピー画像の陰影と幾何学的歪みの両者を補正する際に, エッジ検出の1個の閾値とスキャナの1個のパラメータのみを必要とする新手法を示す. 本手法はコピーした結果に現れる書籍の輪郭情報の利用に基づいている.提案手法の原理を述べた後, 書籍とスキャナのコンタクト面とのギャップ距離の計算の精度を確認する.これに続いて, 実際のディジタルコピー機で得た中間画像ファイルで実験を行う.実験結果は,適切な原画像が得られる際には, 提案手法が有効であることを示している. キーワード:陰影,幾何学的歪み,画像処理,コピー



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