
土橋 宜典(会長、北海道大学)
Yoshinori DOBASHI(President of IIEEJ, Hokkaido University)
私と本学会とのかかわりは30年近くになります。私が学生時代に本学会の研究会で発表して以来、さまざまな形でお世話になってきました。本学会の中核はその名称が示す通り「画像」です。本稿では、「画像」とは何かという素朴な問いから出発し、本学会のこれからについて考えてみたいと思います。
画像とは、空間座標上で定義された関数として表現され、人の視覚を通して情報を伝達する媒体と捉えることができます。画像電子学会が発足した当時は、画像のアナログ表現やそのための技術開発もあったかと思いますが、現代では、デジタル画像を対象とした技術が中心になっていることはご存じのとおりです。そして、デジタル画像を扱うための技術はこの数十年で飛躍的に発展し、現在では極めて多様な研究分野が形成されています。これらの画像を取り巻く技術は、大きく、五つに分類することができると考えています。すなわち、取得するための技術、加工するための技術、理解するための技術、生成するための技術、そして、伝達するための技術です。
画像を取得するための技術には長い歴史があります。フィルムに焼き付けるアナログ式の写真機の時代が長く続きましたが、その後、デジタルカメラが普及し、現在では、スマートフォンがその役割の多くを担うようになりました。また、小型化されたカメラは、街中や建物、車両など至る所に設置され、日常的に膨大な画像情報が生み出されています。こうして得られた画像を加工し、その内容を理解するための技術も大きく発展しました。今日では、撮影した画像から撮影場所を特定したり、写っている商品を検索したりすることが簡単に行えます。また、大量の画像情報を表示するディスプレイ技術や効率的に伝達するための符号化技術は絶えず進歩を続けています。私自身の専門であるコンピュータグラフィックスは画像を生成するための技術です。そして、現在、これら画像技術に関するあらゆる分野に大きな変革をもたらしているのが人工知能(AI)です。AIは膨大なデータを学習し、従来の技術と融合することで、新たな可能性を切り拓きつつあります。画像情報を取り巻く環境は、いままさにかつてない速度で急速に変化しています。
本学会は、ファクシミリ関連技術の研究開発を主軸として発足しましたが、画像関連技術の発展に呼応する形で、その対象分野を拡大しています。にもかかわらず、残念ながら、会員数は減少傾向です。恥ずかしながら、私は、会員数の減少だけを見て、本学会の存在意義を疑問視していました。しかし、本学会が主催する学術イベントに参加してみますと、私の想像以上の発表件数が維持されており、また、多様で大変興味深い研究内容が報告されています。こういったことから、本学会が提供している学術交流の場には、十分な意義と活力があるのだと考えを改めるに至りました。思い返すと、私自身も本学会のビジュアルコンピューティング研究会を中心にずいぶん発表させていただきました。本学会での研究発表を起点として世界的に重要な研究へと発展した例も数多くあります。学会長を拝命するに至り、このような貴重な学術交流の場を守り、かつ、発展させなければならないという思いを新たにしているところです。
本学会の会員数減少の一因として、本学会が現在対象としている研究領域や活動内容が十分に伝わっていないこともあるのではないでしょうか。新しい分野で活躍する若い研究者への訴求力が十分とは言えないように感じます。本学会での対象分野や研究発表を俯瞰すると、画像を中心とする視覚情報の取得・理解・生成・伝達・共有までを含んでいます。一見、それぞれ異なる対象を扱っているように見えますが、画像・視覚情報のライフサイクル全体を対象とする学会と捉えることができます。私は、その活動は次の三つの柱としてまとめられると考えています。
いかがでしょうか。画像に関する技術は急速かつ多様に進化しており、もはや単なる「画像」という言葉ではひとくくりすることが難しくなっているように思い、ここではあえて「画像」という表現を避けています。こうしてみてみますと、本学会は、現代の画像を取り巻く環境に柔軟に適応し、画像ないしは視覚情報に関する技術を基礎から最先端まで扱う場を提供していることがわかります。
本学会はその発足後、50年を超える歴史があります。画像を取り巻く環境は今後も大きく変化していくでしょう。しかし、人が視覚情報を通じて世界を理解し、新たな価値を創造するという本質は変わりません。本学会が、画像や視覚情報に関する技術を議論し、新しい研究を生み出す場として、これからも時代とともに発展し続けられるよう、会員の皆様とともに尽力してまいりますので、ご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。